「THE HOTEL VENUS(ホテルヴィーナス)」を観て [映画(DVD)]
国民的人気アイドルグループSMAPの草なぎ君が出演している、人気テレビ番組「チョナンカン」からのスピンオフ作品として制作されたこの作品。
「東京」でも「ソウル」でもないどこか特定できない「名も無い街」。
そんな無国籍な世界観を表現したかったというタカハタ監督の希望でロシアのウラジオストクで撮影され、セリフは全編ハングル語で話される、この作品は邦画というジャンルから一歩抜け出たボーダーレスな映画に仕上がっている。実際、メインキャストの半分は韓国の役者さんがつとめ、日韓共同制作と銘打たれている。
映画が始まり飛び込んでくるのは白黒の映像。
古き良き名画(古いイタリアやフランス映画を思い出す)へのたっぷりのオマージュと、たんなる物まねでは終わらない編集方法(同じアングルの同じシーンをわざとカットをぶつ切りにして不思議な時間経過を表現している)で構成されている白黒の映像は、どのシーンも練り上げられていて隙がないほど美しい・・・。
と、いうのは全部見終わったあとの感想で、正直、冒頭の30分ほどはこの白黒の映像と独特のカット割りに慣れず、自主制作映画にありがちな古き良き名画を真似しようとして逆に中途半端にしか真似できないでかっこ悪くなってしまっている映像作品?というふうにひねた見方をしてしまっていた。
しかし、登場人物の設定が紹介され、「この人誰だっけ?」とか「この二人の関係は恋人?夫婦?」といった疑問がすっきりし物語の展開に集中できるようになると、話のテンポもだんだんとスピードを上げていき役者たちの魅力的な演技によって、ぐいぐいと物語にひきこまれ、いつのまにか映像への違和感は、この物語の世界観を形成する無二の「美しい」情景として心にはいってきていた。
「知らない場所」の「知らない人たち」の「ささやかな日常」と「ささやかな苦悩」を描きたかったという脚本は、主演の草なぎ剛をはじめ中谷美紀、これが映画初出演という市村正親らによって、「(知らない場所ではなく)身近などこかに感じる名前が特定できない場所」で起こっている共感できる物語へと昇華されていく。草なぎ君も、中谷美紀も本当にいい役者さんになったなぁと再確認。
「生きるべきか?死ぬべきか?
悩んでいる時点で そいつは
生きていたいんだよ。」
「強さ」とは?「生きる」とは?「夢」とは?
といった問いのヒントになるようなセリフがちりばめられた脚本は、サスペンスでもアクションでもコメディでもない本作を上質のエンターテイメントに感じさせてくれる。ちなみに私は、クライマックスの逮捕シーンでは、すっかり登場人物に感情移入して号泣してしまった。
この作品、「白黒」、「ハングル」「日本語字幕」といったハードルはあるけれど、それさえクリアできれば多くの人にすすめたい一本です。
LOVE PSYCHEDELICOやKOKIAが彩る音楽もとっても素敵だったのでサントラも聴いてみようかなと思ってます。無国籍な感じに浸れそうなので(笑)
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