春に観たくなる映画Part1「四月物語」岩井俊二監督 [映画(DVD)]
日差しにには季節感がある。
夏には刺すような痛さを感じてしまうし
秋にはその消えゆくような温かさに寂しさを強烈に感じてしまう。
冬には、寒さを和らげてくれる日差しに優しさを感じるし、
春には、サクラや新緑の葉っぱに跳ね返って届けられる光に柔らかさを感じていしまう。
そんな春独特の柔らかい日差しを、そのまんまフィルムの中に閉じ込めたような質感の映像美。
- 出版社/メーカー: ビデオメーカー
- 発売日: 1999/03/17
- メディア: DVD
春に観たくなる映画のひとつ、岩井俊二監督の「四月物語 」にはそんな映像美が詰まっている。
東京でひとり暮らしを始めた松たか子演じる女子学生「卯月」の、ある“不純な動機”と”小さな冒険の日々”を綴ったショートムービーである、この「四月物語 は
新しいアパート、新しい学校、新しいお隣さん、新しい自転車、新しい本屋、
そして桜の花びらが彩る新しい風景と新しい日々
誰でもが何かしら腑に落ちるいたって個人的な“喜びや不安”への共感
人がひとりで生きていくことの自由と誇り、恋することのドキドキを、
軽やかなテンポと温かい視点で描いたとてつもなく美しい日常への賛歌が詰まった作品だ。
この作品が公開された1998年は、自分自身にとっても高校を卒業し大学へ通うために宮崎から上京し一人暮らしを始めた年でもある。
それもあってか、「四月物語 」を観るたびに、一人暮らしを初めて間もない頃の生活や大学入学当初の記憶がこの作品を見るたびに鮮やかに思い出されてくる。
不器用で、かっこつけで、しゃべりが下手で、それでも変な自信だけはあった大学入学当初の不思議なあの感覚。一人で外食するのも、ごはんをつくるのも、買い物も、何もかもが新鮮だったこと。
映画の中では、サクラが本当に上手に使われているのだが、そんなシーンを観ると、上京したての頃に宮崎では散り終わっていたサクラが、関東ではまだ鮮やかに咲きほこっていて、風が吹くたびにハラハラとサクラの花びらが舞っている姿をみて
「宮崎を遠く離れたんだなぁ」
ということをしみじみと感じたことを思い出してしまう。
今では、逆に宮崎のサクラを思い出すことのほうが難しくなってしまっていて、流れてきた時の長さを再認識もしてしまうけど(汗)
また、この作品は、自分にとって
こんな美しい映像が撮りたい!
と、強く感じさせてくれた作品のひとつでもあるので、そういう意味でも春が来るたびに見直したくなります。
初心忘れるべからずって、ことで。
「THE HOTEL VENUS(ホテルヴィーナス)」を観て [映画(DVD)]
国民的人気アイドルグループSMAPの草なぎ君が出演している、人気テレビ番組「チョナンカン」からのスピンオフ作品として制作されたこの作品。
「東京」でも「ソウル」でもないどこか特定できない「名も無い街」。
そんな無国籍な世界観を表現したかったというタカハタ監督の希望でロシアのウラジオストクで撮影され、セリフは全編ハングル語で話される、この作品は邦画というジャンルから一歩抜け出たボーダーレスな映画に仕上がっている。実際、メインキャストの半分は韓国の役者さんがつとめ、日韓共同制作と銘打たれている。
映画が始まり飛び込んでくるのは白黒の映像。
古き良き名画(古いイタリアやフランス映画を思い出す)へのたっぷりのオマージュと、たんなる物まねでは終わらない編集方法(同じアングルの同じシーンをわざとカットをぶつ切りにして不思議な時間経過を表現している)で構成されている白黒の映像は、どのシーンも練り上げられていて隙がないほど美しい・・・。
と、いうのは全部見終わったあとの感想で、正直、冒頭の30分ほどはこの白黒の映像と独特のカット割りに慣れず、自主制作映画にありがちな古き良き名画を真似しようとして逆に中途半端にしか真似できないでかっこ悪くなってしまっている映像作品?というふうにひねた見方をしてしまっていた。
しかし、登場人物の設定が紹介され、「この人誰だっけ?」とか「この二人の関係は恋人?夫婦?」といった疑問がすっきりし物語の展開に集中できるようになると、話のテンポもだんだんとスピードを上げていき役者たちの魅力的な演技によって、ぐいぐいと物語にひきこまれ、いつのまにか映像への違和感は、この物語の世界観を形成する無二の「美しい」情景として心にはいってきていた。
「知らない場所」の「知らない人たち」の「ささやかな日常」と「ささやかな苦悩」を描きたかったという脚本は、主演の草なぎ剛をはじめ中谷美紀、これが映画初出演という市村正親らによって、「(知らない場所ではなく)身近などこかに感じる名前が特定できない場所」で起こっている共感できる物語へと昇華されていく。草なぎ君も、中谷美紀も本当にいい役者さんになったなぁと再確認。
「生きるべきか?死ぬべきか?
悩んでいる時点で そいつは
生きていたいんだよ。」
「強さ」とは?「生きる」とは?「夢」とは?
といった問いのヒントになるようなセリフがちりばめられた脚本は、サスペンスでもアクションでもコメディでもない本作を上質のエンターテイメントに感じさせてくれる。ちなみに私は、クライマックスの逮捕シーンでは、すっかり登場人物に感情移入して号泣してしまった。
この作品、「白黒」、「ハングル」「日本語字幕」といったハードルはあるけれど、それさえクリアできれば多くの人にすすめたい一本です。
LOVE PSYCHEDELICOやKOKIAが彩る音楽もとっても素敵だったのでサントラも聴いてみようかなと思ってます。無国籍な感じに浸れそうなので(笑)
「SWING GIRLS(スウィングガールズ)」を観て [映画(DVD)]
「恋がしたくなる映画」。(例;初恋のきた道 )
「写真が撮りたくなる映画」。(例;恋愛寫眞)
その作品を観終わって、「~したくなる。」感情が自然と沸いてくる映画。と、いう評価はそれだけで上質の映画を指す褒め言葉だと私は思っている、
この「SWING GIRLS」は観終わった後に、無性に
「楽器を演奏したくなる。」
そんな映画。
「WATER BOYS」ですっかり有名になった矢口史靖が監督・脚本を努めた、この作品は、スウィングジャズに魅了された東北の片田舎の女子高生たちが、ビッグバンドジャズに挑戦する姿を描くガールズ版「WATER BOYS」とも云われる青春映画だ。
矢口監督、前作「WATERBOYS」でも感じたが本当に役者の演出が上手い。主演の上野樹里や、メインキャストで唯一の男子JUNONBOYの平岡祐太、メガネ姿が印象的な本仮屋ユイカをはじめとする十代の出演者たちが本当にのびのびと躍動感にあふれた表情をして画面狭しと動き回っている様は観ているだけで気持ちがいい。
「役者さんなんだからそんな顔しちゃダメなんじゃ?」
と、心配してしまうくらい溢れ出す感情にまかせて泣いたり笑ったり困ったり、ニヤついたりびっくりするくらいころころと表情をかえている様はそれだけで魅力的でぐいぐい画面に引きこまれてしまった。
そんな若い役者陣に負けじと竹中直人や谷啓、白石美帆(個人的には今回の役は今までみた白石美帆のなかで一番の好感度)、それに矢口作品には欠かせない?西田尚美なんかの大人たちもへんに自己主張しすぎることも無く各々がいい味をだして映画を盛り上げてくれている。
ただ、そんな魅力的な役者に溢れていたからといって 「文句の付け所が無い!」 って映画なわけではない。 物語の流れやテンポを最重要なものとしているためであろう漫画的な展開や、話に緩急をつけさせるために散りばめられらたギャグ(個人的にはど真ん中で、何度も笑ってしまった)は、人によっては「受け入れられない方」もいるかもしれない。
が、それでも魅力たっぷりの出演者たちが吹き替えなしで挑んだという演奏シーンは、万人に見せたいと思わせるほどに圧巻。
楽器を全く弾いたことがない女子高生たちがビッグバンドジャズの魅力にはまり、だんだんと上手くなっていく様子が、前半部分の演奏が本当に「ヒドイ」ため、映像ではなく「音」によってリアリティを持って伝わり、前半の演奏がひどく聴こえていればいるほど、エンディングで堂々と演奏している出演者に感情移入させられこの作品を感動的なものにしている。
ちなみに今回、私はDVDで観たのだけれど映画館で観たかったなと後悔してしまうくらい「いい映画」でした。やっぱ大画面でいい音で観ると感度も違うから。
まぁ本当はDVDでは監督と出演者が副音声でコメントするという特典がついていて撮影の裏話や他のセリフにかぶって聴こえなかった面白セリフなんかが聴けて、「DVDで観てよかった☆」とも思ってるんだけど(笑)
「半落ち」を観て [映画(DVD)]
「このミステリーがすごい!2003年度版」等で1位となった横山秀夫氏のミステリー小説の映画化。監督は、「陽はまた昇る」の佐々部清。
この映画は決して華はないが演技が上手い俳優をずらりとそろえた渋めの豪華キャストになっている。アルツハイマーの病にかかった妻を殺した元敏腕刑事に寺尾聡、妻役に原田美枝子。柴田恭平、西田敏行、伊原剛志、鶴田真由、樹木希林、吉岡秀隆・・と、端役にいたるまで演技力にこだわったキャスティングになっている。2時間では、登場人物を描ききれないぶん短い時間で人生を滲ませることができる役者達をそろえたのかもしれない。
ストーリーは、元捜査一課警部、梶(寺尾)が3日前に妻を殺害したと警察に自首してくることからはじまる。梶は自首はしたものの犯行後2日間の行動については沈黙を守る「半落ち」の状態。しかも梶は半年前に若くしてアルツハイマー症になった妻(原田)の看病のため辞職し、警察学校で教師をする人望の厚い人物だった。その犯行を訝しむ刑事(柴田)、検事(伊原)、弁護士(國村)、新聞記者(鶴田)らは調査を進めていくうちに真実が見えはじめて・・。と、いうもの。
この映画は生きるとはなにか?愛とはないか?を、リアルに観るものに突きつけてくる。
アルツハイマー、白血病、介護問題といったキーワードを軸にして物語りは何度となく
「あなたは何のために?誰の為に生きていますか?」
という問いを繰り返してくる。
老いや病によって愛する人が壊れていくのを目の前にしたとき、どうするべきか?この問題は、介護に関わったことがある人はもちろん、ないひともいずれ身近な問題になるかもしれない可能性を秘めているものだ。
正直、前半の警察と検察、マスコミの駆け引きややりとりはわかりづらくやや緊迫感にかけるし映画全体の盛り上がりも穏やかでここという映画らしい見せ場はないに等しい(あえて挙げるとして裁判シーンだが)。いい意味でも悪い意味でも非常に良く出来たテレビドラマスペシャルといったチープさを感じてしまう作品ではある。また、ミステリー的見せ方は凡庸で原作ファンから批判があがっているいうのも判らなくもなかった(原作ものの宿命だが)。
しかし、そういうことを踏まえてもDVDでもテレビでも良いので多くの人の目に触れて欲しい素敵な作品だと思うのでまだ未見の方は是非どうぞ。
CASSHERNを観て [映画(DVD)]
「あなたの幸せ願うほど
わがままが増えてくよ
それでもあなたを引き止めたい いつだってそう
誰かの願いが叶うころ
あの子が泣いているよ」
(宇多田ヒカル「誰かの願いが叶うころ」より)
「CASSHERN」を観るまではこの歌は万人が幸せになることができないエゴとエゴのぶつかりあいである恋愛の悲哀を歌ったものだとばかり思っていたけど、この映画のエンディングで聴こえてきたそれは、この曲に対しての今までの印象を塗り替えるものだった。
この曲。母親が戦争に出向いた息子を思い無事に帰ってきて欲しいと願い、それが叶ったときにその願いは他の母親の願いを消し去るものかもしれないといったような事が起こってしまう「戦争」の悲哀を歌っているように聞こえてきたのだ。
宇多田ヒカルのPV『Traveling』、『光』、『SAKURAドロップス』などの映像演出で知られる紀里谷和明監督が、その独自のイマジネーションを駆使して映画化した話題作。劇場公開されていた頃からずっと観たかったのだが、ずっとタイミングを逃し続けてきてやっとこ鑑賞。
彼のPVは個人的にも大好きだったので結構期待して観る。
役者が、ずっとブルーバックの前で演技したという全編CGで描かれた美しい背景。ほぼ全てのシーンに色調補正をかけているコントラストの強い画像。また、全編全てのアングルがその場面で静止をかけたとしても美しい構図。と、「CASSHERN」の映像感は今までの日本映画とは一線を画すものであった。ただ、それは非の打ち所がないという意味ではない。映像という意味では逆に美しすぎる構図をゆったりとストーリーの流れに関係なく見せられることに強烈な違和感を感じる場面や退屈に感じてしまう場面も多々ある。
脚本は、世界観の構築のためであることはわかるにしても、変に難しい単語や言葉遣いを多用しているせいで、かなりわかりにくい。物語のあちこちに「あれ?どうして?」と思わせるツッコミどころを配置して最後に一気に解決してビックリさせる手法をとっているのだが、いかんせん話の規模がでかいせいか説明的になってしまっているし、また説明しないままの箇所も多々あり消化不良な部分は否めなかった。
が、役者陣のいきいきとした演技もあり世界観に入り込めなかったとしても十分に感情移入できる余地はあり(入り込めない人たちがいるのも理解できる)、やるせない悲しい結末に胸が熱くなってしまう。
一言で感想を言えば、映像に関しても、脚本に関しても意欲作であるがゆえに賛否が分かれるであろう作品で「いい意味でも、わるい意味でも自主制作映画のよう」な印象を受けた。きっと、「好き」「嫌い」がわかれる映画だなぁと思いつつネットで作品の感想を探してみるとまさに賛否両論の嵐で「観る時間も無駄な駄作」という声から、「日本映画の枠を超えた傑作」という声まで本当にさまざま。
ただ、「好き」にしろ「嫌い」にしろたくさんの意見が生まれるのは映画にとってとてもいいことだと思うので個人的にはかなり評価してるし、「好き」な作品です。観たことが無い人は肌に合わなければ途中で観るのを止めてもいいやというスタンスでいいから観て欲しい作品かも。